企業が成長していくためには、労働力すなわち人材の確保が必須です。
一人ができることは限られていますので、ある程度の規模になったら、人材を確保してあなたは本来やるべきタスクに集中すべきです。
しかし、中小企業にとっては、人材を確保することは重要な課題の一つとなっています。
人材を確保する理由として、労働力不足が考えられますが、生産性の向上やアウトソーシングによる労働力確保の方法など様々な方法があります。今回は、その中でも自社で人材を採用する際の方法を紹介します。
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近年の労働者市場
日本の労働力は、2008年秋のリーマンショック後に、一時的に供給過剰状態となったものの継続して減少傾向にあります。
2018年1月の完全失業率は、2.36%まで低下しています。これは、1993年4月以来の低い水準となっており、要因別にすると、均衡失業率が2.84%、需要不足失業率が-0.48%となっています。
均衡失業率は、勤務地や職種などの条件が合わないために発生した失業が要因です。
また、需要不足失業率は、景気変動に伴う労働需要の減少が要因です。
そのため、完全需要不足失業率がマイナスとなっている現在は、職種などの条件を問わなければ、完全雇用が成立している状態ともいえます。
労働力を支えているのは高年齢層と女性
総務省の労働力調査によると、少子高齢化に伴い、労働の中核となる生産年齢人口(15歳以上64歳未満人口)は、1997年を境に減少を続けており、今後も減少が見込まれています。
一方で構造的な就労環境の改善を受けて、労働力人口は微増を続けています。
労働力人口とは、生産年齢人口から非労働力人口(学生や家事従事者、病弱者など、就労の意思を持たないもの)を除き、就労意欲のある65歳以上の人口を加えた数値です。
生産年齢人口が減少する中、労働力人口増加の下支えをしているのは、「多様な働き方」の象徴ともいえる高年齢層と女性です。
潜在労働力の顕在化
今後は、人口の増加が期待できないため、今後の労働力確保には、潜在している非労働人口を労働力として顕在化させることが不可欠になります。
そのためには、企業側にもきめ細やかな努力が必要となります。
求人を行う前にもう一度見直すこと
労働力不足を感じたときに、すぐに求人を出し採用活動を行ってはいけません。一度、冷静になって、なぜ新たな労働力が必要と考えているのか整理しておく必要があります。
人材の採用には、時間も労力がかかります。また、採用後には、給料として固定費がかかってくることを忘れてはいけません。
本当に必要な人材を確保するために次のようなことを行うことをおすすめします。
採用計画を立てておく
人材を採用するとお金や社内の体制など様々なところに影響が発生します。そのため、思いつきで人を採用すべきではありません。
事業の成長状況、年間予算及び社内の受け入れ体制などを総合的に考える必要があります。
また、人が欲しいと思っても条件に合う人がすぐに見つかるとは限りませんので、募集期間などを踏まえて計画的に行って行く必要があります。
今すぐ人を増やさないと仕事が回らない状況になってから、人を探すのでは遅すぎます
必要な時期に適切な人がいるように採用の計画を立てて余裕を持った活動を行っていく必要があります。
業務の整理
業務で何がボトルネックとなり、負荷がかかっているのか整理してみてください。今は、中小企業であっても簡易に利用できるITソリューションもあります。現在の労働力で本当に対応できないかを整理して可視化してみると効率化を図れば対処できることは少なくありません。
自社で業務整理が難しい場合は、中小企業診断士をはじめとする認定を受けた外部の専門家を活用することも有効な手段となります。
必要な人材を明確にする
どのような人材を採用したいのか明確にすることが必要です。
人材の採用は、単に高いスキルを持っているだけではなかなか希望の人材を確保することはできません。
また、採用後に、欲しかったのはこんな人じゃなかった。と後悔しないように採用したい人のイメージを明確にしておきましょう。
特にどんなスキルを持った人がよいのか、逆にどんな考えの人とは働きたくないのかを明確にしておくと選考しやすくなると思います。
採用後の受け入れ態勢を作っておく
採用後の教育方法についても事前に準備が必要です。
仕事を誰が教えるか、コミュニケーションの方法をどうするかなどを考えておかないと仕事がない状況になり、せっかく採用した人のモチベーションが低下してしまいかねません。
ルーチンワークであれば、業務マニュアルを準備したり、教える社員を割り当てておくなどしておきましょう。
また、正社員でなくとも長く就業してもらいたいと考えるのであれば、日々のコミュニケーションは大事になりますので、定期的なコミュニケーションの場(面談等)を予定しておくのがいいでしょう。
求人票作成のポイント
求人票に記載する項目
ハローワークをはじめとする求人媒体などのツールを活用する場合は、基本的に掲載する情報のフォーマットが決まっているため、掲載する項目は、そのフォーマットに従って記載することになります。
その中でも特に注意すべき項目について、ポイントを紹介します。
1.給与
時給や月給については、昇給があれば特定の条件の場合のみ記載するのではなく、「○○円以上」、「○○円~○○円」、何時以降は、「○○円」など金額を固定せずに記載します。
特に残業代などが含まれるのか、別途支給されるのかなども合わせて記載しておくと後々のトラブルを防ぐことができます。
給与については、地域の最低賃金、近隣の競合他社の賃金、同業者の賃金などを参考に検討するとよいでしょう。
2.諸手当
最近は、諸手当が充実している求人も増えています。そのため、他社の求人情報と見劣りするような条件だけであっては、求職者が応募してこない可能性があります。
例えば、交通費を全額補助(月いくらまでなど)している場合にに、一部補助や全く支給しない場合は、条件が悪くなってしまいます。
もちろん、他社より強みとなる諸手当を提示できれば求職者が集まりやすくなりますが、その分の負担もありますので、最低限、当社の条件が見劣りしないような内容とすべきです。
他にも試用期間中に通常より低い給与を記載している求人票を見かけますが、即戦力になるかならないかは、求めるスキルや受け入れ体制などにも左右される部分になるため、企業側が努力すべき点をすべて求職者側に転嫁するような条件は、設定しない方がいいでしょう。
3.連絡先
求職者が求人情報を問い合せる方法(電話、メールアドレス)や担当者名は、必ず記載しましょう。
特に普段対応に慣れていない社員が対応し印象が良くなかったら、応募してこない可能性も考えられます。
特に電話については、対応できる時間や担当者などを明記しておくことで業務の関係で電話に出られないなどの不誠実な対応を防ぐことができます。
シンプルで分かりやすく
求人票で会社のすべてを伝えることは不可能です。採用を成功させるためには、求人用を見て求職者に面接を受けてもらうことが重要になります。
そのため、詳細まで事細かに記載するのではなく、可能な限りシンプルにして面接に来て話を聞いてみたい。と思っていただける求人票を目指します。
例えば、「求職者の希望をお聞きします」と記載しておいて、面接において詳細を伝える方法があります。(もちろん、どっちとも取れるような内容にしておいて、面接で詳細を説明しないような勘違いを起こしかねない対応は絶対にしてはいけません。)
求人票の掲載
求人票を掲載する場所は、求人広告などの求人媒体だけではありません。店舗や会社の敷地内でも構いません。店舗の場合、ポスタースタンドに入れて告知することも有効な方法です。特に近隣の住人に対して募集をかけたい場合や1~2名の少人数を募集したい場合などは、費用をあまりかけずに対応することができます。
なお、店舗や敷地内に求人を掲載する場合は、企業のイメージが大切となります。
清潔なイメージ、社員や会社の雰囲気など働きたくないと感じるような雰囲気は、求職者が来なくなる原因となりますので日常的に企業のイメージづくりに取り組んでおく必要があります。
また、求人票自体も手書きではなくパソコンを活用して見栄えのよい求人票を掲載することが重要となります。
書類選考で確認するポイント
書類選考では、事前に設定した求職者のステータスにマッチするか確認します。
基本、大きな問題がなければ通過させ面接で判断した方がよい。
具体的には、次の項目をもとに複合的に判断する。
1.職歴の数
転職回数が多い場合、短期間に転職を繰り返している場合は、本人に何らかの問題がある場合がある可能性があり、長期的な就業には懸念がある場合があります。
例えば、前職を3年以内に退職している場合で判断できます。また、1年以内の転職が複数回ある場合は長期勤務が難しい可能性が考えられます。
ただし、転職理由によっては、そのリスクが変わってきますので必ず確認するようにします。
業界内でのスキルアップや転職理由に一貫した理由があるような場合です。単に転職といっても本人だけの問題ではないケースも考えられるため、面接で理由を確認してから判断することも一つの方法です。
2.職歴の空白期間
職歴の空白期間は、その回数、長さ及びその理由を確認します。
空白期間が長いと労働意欲の低下、実務の感覚が鈍っている可能性があるからです。
また、就職活動で企業の希望に合せられない柔軟性に欠ける人材の可能性もあります。
こちらも、職歴と同様、前向きな理由の場合があるため、必ず確認するようにします。
3.志望動機
志望動機は、弊社への入社の志望度の高さを判断します。
ポイントは、単に使いまわしのマニュアル的な志望動機の有無です。どの企業でも当てはまるような志望動機は、使いまわしている可能性があり、志望度が低い可能性があります。
特に自社に対する独自の理由がなく熱意が感じられない場合は要注意な人材となります。
4.写真の印象
書類上の写真でも見分けられることもあります。
写真の貼り方一つ見ても雑に貼っている応募者がいますので業務の遂行レベルを測ることができます。
ただし、写真のクオリティだけは、力を入れているような場合もあるので参考程度に確認して、気になる場合は、面接で確認するようにしましょう。
5.書類受付後の対応
書類選考時の対応は、応募者を見るだけでなく応募者からも見られていることを意識すべきです。
書類が届いた時点ですぐに返事を出すことを心がけます。
また、合否に関係なく素早いアクションを起こすべきです。応募していただいたことに対して企業として感謝の意を表明します。
面接のポイント
面接では、長期勤務に当って重要となる職歴、自社の志望度、向上心などを評価します。
なお、面接では、記帳なお時間をいただくわけですから、書類を確認して分かるようなことをわざわざ面接で確認するようなことにならないように事前に評価・確認しておきましょう。
面接の工程別に必要なポイントを解説します。
1.面接前に準備すること
(1)複数人での面接体制
応募者に偏った評価をしないために、面接官は複数いた方が望ましいです。
例えば、1回の面接で2人体制で対応するとしたら、配属予定の現場が分かる人物とその管理者クラスを組み合わせるなど異なった視点で評価できるように配慮します。
(2)社内への面接実施の周知
企業側も、応募者から選考されていることを意識を持つべきです。
例えば、受付に応募者が訪れたときに不適切な対応をしてしまうとマイナスの印象を与えてしまう可能性があります。
これを防ぐためにも、日常から外部からの来客者に対する対応を教育しておく必要があります。
決して、面接の当日だけ気をつけるような特別なことをしてはいけません。入社前と入社後のギャップは、離職のきっかけとなってしまう可能性があるからです。
(3)面接の段取りの連絡
面接の流れは、可能な限り応募者に提供します。面接の所要時間や形式、面接と併せて実施するテストの有無などです。
また、応募者は、入社するまでは、あくまで社外の方ですのでお客さまと同じように接することが重要となります。
2.面接で確認すること
(1)職歴
職歴を本人から説明してもらうようにする。
事前に提出された職務経歴書に記載されているが、キャリアを最初から聞くべきです。本人から直接説明してもらうことでどの程度業務に関わったのかを確認することが可能です。
また、必要に応じて携わった業務の詳細を説明してもらいます。
これにより、業務に深く関わっていないスキルが低い応募者を確認することができます。
(2)退職(転職)理由
中途採用の場合は、前職の退職理由を1社ごとに必ず確認します。
応募者の転職に対する考え方を確認して、弊社で長く働いてもらえる人材かどうかを見極めます。
今まで転職した理由が弊社でも当てはまらないか確認する必要があります。
面接では、必ず応募者自身の口から説明してもらうようにします。
なお、病気を理由とした退職の場合は、病気によっては完全が難しいケースがあるため、自社の業務を遂行する上で問題がないか確認しておく方がよいでしょう。
(3)仕事の選定ポイント
求職者が何を重視して会社を選択しているかを確認します。
報酬だったり、仕事内容だったりと様々な理由が考えられます。それらの水準が希望と合うことを確認します。
また、求職者が会社に求めていることが自社が提供できることにミスマッチが発生しないか確認します。
この際、人材を確保することを重視して良いことだけを伝えるだけでなく実態に即した情報を提供する必要があります。
例えば、希望する職務内容が入社直後に提供できない場合や実際の職務内容をありのままに伝えるなどです。
仕事内容の認識齟齬は、短期の離職につながりやすい項目なので実態をありのままに伝えるようにします。
(4)他社選考の進捗状況
応募者が自社の指導順位がどの程度であるか確認をしておきましょう。
仮に、自社が第一志望でなくても早く内定を出すことで選択のプレッシャーをかけることが可能となります。
また、第二志望以降で合った場合は、辞退の可能性があることを想定し、他の応募者の選考も進めておくようにしましょう。
ただし、欲しいと感じた応募者で合った場合は、待っておく必要があります。
(5)質疑応答
面接の最後には、質疑応答を行うようにします。
これは、応募者の疑問を解消しておくとともにやる気や興味の対象を把握するために重要なものとなります。
具体的な質問をするためには、ある程度実際に働いた際の想定がないとできないからです。準備があれば、業務に即した業務内容など実際に働いたときに関わる内容の質問をしてくると思われます。
また、準備など関心がないと休暇や福利厚生など自らの待遇に関する質問が多くなる傾向があります。ただし、待遇についても働いた際には重要なモチベーションの要素になりえる可能性があるため、質問されたからといってその候補者は駄目であるというわけではないことに注意は必要です。
3.面接でしてはいけない質問
面接では、法的に行ってはいけない質問があります。例えば、家族構成などです。本人ではどうしようもない理由で、選考による差別や人権侵害が発生する可能性があることは行ってはいけません。
それ以外にも、本人のスキルや意欲に関わる以外の興味本位的な質問も避けるべきです。かならず、面接における質問は、業務に関わる形で行われるべきです。
採用後にすべきこと
面接が終了したら、自社の基準に基づき応募者の採否を評価します。ポイントは、評価・連絡のスピードです。
1.速やかなも確認しながら判断すること
合格ラインギリギリのようなケースについては、喫緊の欠員、社内で教育を行う余裕などを踏まえて採用を決定します。
不採用とする場合は、年齢、性別又は住所を挙げることは公正な採用選考に反する。そのため、採用するポジションと比較してふさわしい経験を積んでいるか、今後の伸びしろがあるかどうかなどを総合的に判断し、本人の能力を重視して決定することが望ましいです。
2.応募者への合否連絡
選考結果は、可能な限り早く応募者に連絡します。
他社でも同様の評価を得ている可能性があり、自社で獲得するためにはスピード感をもった取り組みが必要となります。
選考を早めるポイントは、できるだけ選考工程を集約することです。筆記試験を行うのであれば、面接と同じ日に行うことや、自宅でのWeb受験にするなどの工夫を行うことが有効です。
また、経営層の面接を予定しているのであれば、事前に予定を確保しておくこともスムーズに進める上で必要です。
3.内定後のフォローアップ
内定後は、応募者と蜜にコミュニケーションをとり辞退を防ぐことが必要となります。
応募者の意思が固い場合は、入社に向けての書類を早めに提示して準備を進めておきます。万が一、応募者が迷っているような場合は、強引に勧誘するのではなく、丁寧なヒアリングを行い疑問や不安に思っていることに一つ一つ対応していきます。
必要であれば、職場の見学や配属先の社員との面談などを設定することでより、実際の業務のイメージを持ってもらうことも有効な方法です。
なお、勤務開始日は、確実な日程を早く提示しておく必要があります。
いつ入社できるかわからないような態度をとっていては、応募者は不安を感じてしまう上、企業側の対応を疑いかねません。
採用後の退職を防ぐコツ
応募者が入社した後は、新入社員として安心して長期的に勤務してもらうことに注力する必要があります。
1.キャリアパス(教育プログラム)の提示
採用後に早期退も併せて提示できるとよりイメージを持ってもらいやすいです。
ただし、良いイメージを持ってもらうためだけに実態とかけ離れたキャリアパスを提示することはしてはいけません。
例えば、技術職(エンジニアなど)に営業を行わせ、営業成績が伴っていないと評価(昇進)しないなどです。
実態と乖離したキャリアパスは、モチベーションが下がる要因となる可能性が高く、職務内容を重視する社員の離職を招く可能性があります。
2.相談しやすい環境を作る
新卒、中途に関わらず、入社直後は、少なからず不安があるものです。
直接の上司やチームメンバーに限らず、話しかけやすい雰囲気作りが必要です。
例えば、メンター制度を利用し、年齢の近い先輩社員をメンターにするなどの工夫をします。
3.業務マニュアル、引継書を整備する
限られた人員の中、きめ細やかなフォローができるとは限らないため、マニュアルや前任者からの引継書を準備するなどして、業務上困ったことがあった際に当該社員が自力で対応できるようにすることで不安を軽減することが可能です。
また、OJT等で指導役の社員の教育スキルが低い場合にも有効な手段になります。
4.社員教育の見直し
会社側も一方的に社員の自己学習に頼ることなく、積極的にスキル移管を図っていく必要があります。
いち早く、スキルを習得させることで独力で業務を遂行できるようになり、仕事へのモチベーション向上に繋げることが可能です。
また、社内研修を行っている場合は、本当に社員の糧になっているか定期的に見直し、会社側の自己満足に終わらないことが大切です。
入社した社員とのスキルレベルを鑑みた研修を実施する必要があります。
例えば、中途採用のベテランに初歩的な研修を行うなどしてモチベーションを下げるような研修にならないように注意が必要です。
5.モチベーションを維持する施策
仕事へのモチベーションが上がらないと退職につながる可能性が高くなります。
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まとめ
採用は、事業と同じく計画的に行う必要があります。
また、良い人材を獲得したいがために現実を誇張して説明することなく現在の会社の良い点をありのまま説明するようにしましょう。